寺だより

2019.07.22

三毒

歌手の椎名林檎さんが、令和元年に出されたアルバムのタイトルを聞いてびっくりしました。タイトルは「三毒史」! 三国志とかけたのだと思いますが、三毒とは、仏教が説くところの最も悪い煩悩(貪・とん/瞋・じん/癡・ち)のことです。貪はむさぼり、喉がかわくように欲しい欲しいと思うこと。瞋はいかり、常に怒ってキレること。癡はおろかさ、自分は関係ないと何も考えないこと。この3つの煩悩である三毒が人のこころに広がっていくと、人が人でなくなってしまうという、恐ろしい煩悩です。
自分の欲望のために盗みや殺生を犯す人、あおり運転、パワハラ、児童虐待、怒りにまかせて人を攻撃する人、嘘偽りを並べた愚かな発言、愚かな行為を繰り返す人、こうした現代の状況を見て、林檎さんは「世はまさに三毒時代だ」と言ったのでしょうか。
令和の意味は「人々が美しく心を寄せ合う」ですが、美しいこころであるためには、普段のこころがけが大切です。仏教では三毒を無くしていくには、四摂事(ししょうじ)を行いなさいと説きます。四摂事とは<布施・ふせ/愛語・あいご/利行・りぎょう/同事・どうじ>の四つの実践です。「布施」は喜んで与えること、「愛語」はやさしい言葉で語りかけること、「利行」は見返りを求めず相手のために役立つこと、「同事」は相手と同じ気持ちで尽くすことです。他人に迷惑かけなければ何をやってもよいという考えを捨てて、「他者とどうつながっていくか」を考える、大切な時代に来ているようです。

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